「合掌」―――8年前を悼み続けるバンド、RADWIMPS。
2011年3月11日14時46分18秒――――
この時刻をお覚えでしょうか?
これは両手では数えきれない数多の命が四散し、今もなお多くの人に困窮と恐怖を強いた宮城県牡鹿半島を震源とする東北地方太平洋沖地震、通称『東日本大震災』が発生した時刻です。
この悲劇の後、yahooでは毎年『3.11』と検索することで10円を復興支援に充てるサービスをしています。かくいう私も検索しました。
しかし悲しいことに、8年もの月日は少なくはない人々の記憶からこの悲劇を消し去っていくのも事実。
そんな、忘れ行くある悲劇を少しでも多くの人の記憶に刻み付けるバンドがいます。
RADWIMPSと東日本大震災
RADWIPSは2001年に結成、今年18年目を迎えるロックバンドです。2016年公開の新海誠監督作品『君の名は』にて主題歌、劇中歌を担当、同年紅白出場を果たすなどのメディア露出が増えており、御存じの方も多いと思われます。
彼らが震災と始めて向き合ったのは2011年3月12日、RADWIMPS公式ブログに立てられた「no title」の記事でした。
おい ふざけんな。
地震め。
「 no title」にはこの言葉が記されていました。
彼らのブログには書いた人の名前が最後に記されています。その多くはボーカルである野田洋次郎さんですが、この記事だけは名前が記されていません。
もしかしたら、この言葉は震災に遭ってしまった全ての人の思いを代弁した言葉かもしれません。
その後、彼らの動きは早かった。翌日のブログにて被災された方用の掲示板の解説、そして義援金募集を開始する旨を発表。
その2日後、特設サイト「糸色-Itoshiki-」を開設、義援金と応援メッセージの募集を呼びかけました。
サイトには日本語の他に韓国語、英語、中国語の説明があり、その中央にはこう記されています。
今被災した人たちが早急に必要なものは安否情報、水、食糧、電気、毛布、 暖房器具、医療等だと思います。
お金、言葉ではないかもしれません。 でも必要な時が必ずくる。そう信じてこのサイトはできました。
ちゃんとまた、みんなが、四つの感情の真ん中に立てますように。
喜怒哀楽の真ん中に立って、世界を見れますように。
彼らは彼らなりに考え、出来ないことが多すぎる中で見つけたほんの一握りの『出来ること』を精一杯やっていこうという思いでこの言葉を綴ったのではないでしょうか。
その思いが如実に出たのが、翌日更新された「no title」の記事にあるこの言葉でしょう。
諦めないよ。
人間の欲望はこんなもんじゃない。
ここで終わるほど、やわじゃない。
洋次郎
この記事には、しっかりと名前が記されていました。この思いに押され、募った義援金は僅か4ヶ月で2000万以上も集まったのです。
だけど、彼らはそこで終わらない。いや、終われなかった。
『震災曲』の誕生
2012年3月11日、公式ブログが更新されました。
今日、新曲を発表します。
現在、音と映像の最終作業中です。出来次第YouTube上にアップします。ぜひ聴いてください。
洋次郎
『新曲を発表します』と銘打たれたこの記事。何の前触れもなく突然発表されたことにファンは騒然としたことでしょう。
そしてその数時間後、YouTubeにある彼らの公式チャンネルであるMV(ミュージックビデオ)がアップされました。
『白日』
照り輝く太陽、真昼を意味する言葉を冠したこの曲は、真っ暗な部屋に沢山の火が灯されたろうそくが映し出された光景。
そこからギターの優しい音色と野田洋次郎さんの語りかけるような歌声で始まります。
やがて映像は溶けていくろうそくの弱々しい明かりから、ゆっくりと登っていく太陽が照らし出す暖かな朝焼けへと変わり、それに呼応するように歌声はだんだん大きく、力強くなってくる。
ギターも少しずつ激しく、さらにベースにドラムと新たな音が加わり、それら全てがサビで一気に盛り上がる。
それはまるで、一年前に起きた悲劇をもう一度思い出してくれ、と叫んでいるようにも見えます。
それと同時に、公式ブログにも新たに曲名を冠した『白日』という記事が洋次郎さんの名で更新されました。
そこにはこの日をどう迎えるかを考え続け、その答えとしてこの曲が昨日の昼に出来たこと、そこから怒涛の速さで収録、編集、最終調整などを経て生まれ落ちた曲であると語られます。
また突発的な自分の行動に嫌な顔一つせず協力してくれた沢山の方々への感謝が綴られていました。
その最後には、こう記されています。
最後に、一年前の震災で亡くなったすべての命に、合掌。
『合掌』ーーーーこの言葉こそ、彼らが出来ることを突き詰めていった末にたどり着いた、命を悼むというとてもシンプルな答えなのではないでしょうか。
その後、彼らは毎年のように『震災曲』を発表していきます。
2013年 『ブリキ』
2014年 『カイコ』
2015年 『あいとわ』
2016年 『春灯』
2018年 『空窓』
それぞれの曲に込めた想いを野田さん本人が公式ブログに書かれています。もしよろしければその言葉を見て、改めて曲を聴いてください。
そして来たる2019年ーーやはり、彼らは新たな曲を発表しました。
2019年、『夜の淵』
2019年3月11日、公式ブログが更新されました。同時に、公式チャンネルも新たなMVが投稿されました。
『夜の淵』ーーそれが、7曲目の震災曲です。
公式ブログでは
2018年6月17日7時58分に大阪府の北部を震源とした『大阪北部地震』
同年9月6日3時7分に北海道胆振地方中東部を震源とした『北海道胆振東部地震』
西日本を中心に甚大な被害をもたらした『平成30年7月豪雨』
昨年(2018年)はまさに未曽有の大災害に見舞われた年である。
そして今年の曲は 『大阪北部地震』当日の夜、SNSに溢れかえっていた不安や恐怖に苛まれる人たちのため
野田洋次郎さんが公式Twitterで配信した動画にある歌詞の無い曲に歌詞を付け、編曲、レコーディングしたものであると語られています。
その後は、以下のように続きます。
普段の生活は不自由を味わった時にその幸せに気づきます。
たった一つの電気が、あったかい部屋が、当たり前にそこにいる家族が、お風呂が、食事が、かけがえもなく幸せなことに気づきます。
そんな小さいかもしれないひとつひとつのために僕たちは日々を生きているんだと実感します。
東日本大震災。今も数多く行方がわからない方がいます。
そしてその帰りを待つ家族の方がいます。
元の場所に帰れない方がいます。
オリンピックももちろんいいけれど、なんだか色んなことに蓋をして、忘れてお祭りになるのだけは嫌だなと、思います。
8年が経ち、震災を知らない世代が増えていきます。
残念だけど、きっと定期的に、どうしたって地震や災害は襲ってきます。
僕たちの日常を奪っていきます。
その度に、思いやって、思い合ってひとつになれる国であったらいいなと心から願っています。
最後に、震災で亡くなったすべての命に、今も被災し続ける方達に、合掌。
洋次郎
2020年、東京オリンピックが開催されます。
未だに競技場の建設やボランティアスタッフの募集などでゴタゴタが続いていますが、もう来年に迫っています。
そしてオリンピックによる経済効果、それが日本に与えるもの、そこから更に発展していく日本の姿、朧気ながらも見出された明るい展望、挙げ続ければ数えきれません。
しかし、その下に広がる現実、山積みの問題、今なお不安に苛まれる全ての人たち。
それらに蓋をして、あたかも無いモノに扱い、見て見ぬふりをするのは如何なものか?
そう、彼は思っているのでしょう。
最後に
そんな日本の現状に一石を投じたかの曲を含めた震災曲はRADWIMPS公式チャンネルで聴けます。
その曲たちに込められた想い、そして彼らからのお知らせが綴られた公式ブログ及び公式サイトはこちらです。本文内の引用は全てこちらからです。
彼らはこれからも色々なものに目を向け、耳を傾け、心を寄せ、そこから感じた想いを音楽と言う子供に託し、私たちへ送り届けてくれます。
そんな託された子供たちに目をかけ、手をかけ、いつまでも忘れることなく存分に愛していく。
それを出来るのが、アーティストとファン、というものでしょうか。
全てのものを『忘れない』バンド、RADWIMPSがこれからも末永く私たちに沢山の子供たちを託してくれることを願って。
合掌。